七夕
橘家では毎年、七夕の時期には立派な笹竹を立て、五色の願い短冊を飾る。それは一夏が生まれる前からの習慣だった。そして迎えた今年の七月七日、七夕。その天気は――
「いいお天気」
庭の花々を手入れしていた泉水が思わずそんな感想を漏らすほどの、白い雲がたなびく夏空の快晴だった。
「この分なら今年は彦星と織姫は会えるわね」
手伝うと庭に出てきている一夏に呼び掛けたが、立ててある笹竹の葉を微笑みを浮かべて魅入っている娘の耳には入らなかったようだ。
その視線の先にある笹竹に飾られている短冊達。それは一夏の家庭教師である藤堂兄弟が書いたもの、それに気付いた泉水は、
「………一夏ちゃん、仕上げの水撒き、お願いね」
娘に良く似た温かな笑みを浮かべながら優しく声をかけた。
「あ、ごめんなさい!」
一夏は慌てて水を巻く為の用意を始めた。
そして、一夏は母と同じように空を見上げ、青い瞳を輝かせる。
「今日は彦星と織姫会えますね」
一年に一度、天の川で逢瀬を果たすとされる彦星と織姫。昨年の七夕を挟んだ数日間は一日中雨に降られ、天の川どころか星すらも見えず一夏はガッカリしていたのだ。
「…そう、ね。――じゃあ、後は頼める?」
「? はい。片しておきます」
笑いを堪えている泉水を不思議そうに見送って、一夏は再び短冊に目をやった。
そこには二人の人柄を現すような―繪委の力強い、誓唯の優しい―文字が綴られている。
(去年は頼めなかったから…)
家庭教師になってもらった一年目は、まだ恥ずかしくて短冊を渡せなかった。だが、結果的に雨だったことを思えば、
『うちの庭に毎年飾ってるんです。良かったから書いて下さい』
ちゃんとそう云って渡せたたのだから、今年で良かったのかもしれないと一夏は思った。
短冊は二人別々に手渡して、その時、
『誓唯には見せちゃダメだぜ』
『繪委には内緒だよ』
恥ずかしいから…と互いに同じようなことを云っていた二人。そして書かれていた願いも、とても似通ったものだった。
【誰もが苦しむことがないように】
【皆が幸せであるように】
とても単純で、根源的な願い。
人によってはそれを偽善的と思うかもしれないけれど、一夏は温かさを覚えた。真摯な祈りを感じた。そして、繪委と誓唯らしいと思った…。
だからこれを見つめると、一夏は知らずに微笑んでしまうのだ。
「一夏ちゃん、まだなの?」
「あ、はい…――っ!?」
母の呼び掛けに慌てた一夏の手許が狂い、笹竹にシャワーの水をかけてしまった。
(いけない……)
すぐに水を止めて笹や短冊を見てみるが、軽くかかっただけらしい。
(良かった。――え…)
ホッと胸をなで下ろした一夏だが、少し違和感を覚えた。何処かが違う――そんな気がして確かめようと短冊を手に取ろうとした時、
「一夏ちゃーん、学校に遅れるわよ」
「はーい」
再びの母の呼び掛けに、元気よく返事をしホースを片した一夏はそのまま家の中に戻った。
笹の葉、水がかかった短冊から雫が落ちた。
一夏が感じた違和感の証、水がかかった短冊には文字が浮かび上がっている。
【ずっと一緒にいられますように】
短冊の余白にひっそりと、祈りを込めて書かれた文字――。
水によって浮かんだそれは、夏の陽射しですぐに乾かされ…もとのように見えなくなった。
Fin.
一夏初書き! 口調とか研究しきれてなくてスミマセン(今、DVD確かめていられないので…取り敢えずこのまま)。
これの誓唯と繪委バージョンは、書ければ夏の本(コピーです)に追加で書くかも…。急に七夕話が書きたくなったので、速効上げてみました。
鈴蘭
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これの誓唯と繪委バージョンは、書ければ夏の本(コピーです)に追加で書くかも…。急に七夕話が書きたくなったので、速効上げてみました。
鈴蘭